以前、「メタバース、ZoomやTeamsのかわりになっていくのか?」という記事を書きましたが、その後、現在担当している福井大学大学院の授業にて、NTTが提供するメタバース空間「DOOR」にて授業を行いました。
実はその時、地元の新聞社「日刊県民福井(中日新聞系)」の記者さんも同席していて、その授業を9月6日付の朝刊で取り上げていただけました。(中日新聞 2022.9.6「メタバース 活用進む福井大 ネット上の仮想空間」)
しかも紙面は一面トップ!
ありがとうございます。
見出しで誤解されそうですが、私の担当する大学院の一授業(技術経営)でのお話です。そして、私は仁愛女子短大が本籍の教員。福井大学の客員教授の肩書も頂いているので、いろいろと混乱させてすみません。ただ、このように大きく取り上げていただけたことで、地元福井大学の宣伝になるなら嬉しいです。ありがとうございました!
大きく取り上げていただいたおかげで、早速、福井県の教育庁の方々も研究室までお話を聞きに来てくださいました。反響の大きさに私が一番驚いています。
内容は紙面だけでなく、中日新聞のウェブ版でも公開されているので、そちらでお読みいただけますが、記者さんに取材された時の内容を自分なりに詳細にまとめたので、記事の補足になればという思いと、今後、教育関連で何か参考やヒントにしていただけたらとの思いでブログで公開したいと思います。(長文です。)
心理的な距離感が確保できるメタバース
これまで、動画とMoodle(LMS)を組み合わせたオンデマンド型授業やMeet / Zoom等のツールを使ったリアルタイム型授業など、様々な形式でのオンラインの授業をおこなってきましたが、それぞれに良さがあると感じています。それは、対面(リアル)での授業スタイルにも様々なものがあって、効果が違うのと同じことだと思うのです。
非同期型といわれるオンデマンド動画とMoodle(LMS / 学習システム)を組み合わせた授業は、いわゆる講義などの知識習得型の授業に最適だと思います。それぞれのペースで学習を進めることができるので、主体的に学習できれば非常に効率的に学ぶことができます。
そして、テレビ等などでオンライン授業として紹介されてきたMeet/ Zoomなどによる同期型(リアルタイム)の授業形式ですが、人物は画面の中に、しかも平面的に自分も含めて並んで表示されるので、不思議な距離感・違和感が残ります。グループディスカッション等もできますが、その画面表示が違和感の原因なのではないかとも思えます。
講義を受けるだけならこれで違和感ないのですが、そうであれば非同期(オンデマンド)でもいいということに。同じ画面の中に並んでいるのに距離感を感じるのは、格子状に整列された表示にも一因があるのかと考えています。(近すぎるという距離感です。心理的な検証をしているわけではないですが…)
一方で、今回活用した3Dメタバース空間ですが、同じデジタルでオンラインでも、その画面の中に適度な距離感を感じることができます。この距離感、物理的にも人によって距離が違うように(パーソナルスペースのようなもの)、自分の距離感でその空間に立つことができるので、パーソナルスペースが広い人だと安心感があるのかもしれません。そのようなことを漠然と感じました。Zoomだと、このスペースが窮屈に感じます。また、監視されているようにも感じます。不思議ですね。
この距離感を疑似的にでも体感させてくれるのが、メタバース空間であると感じているので、グループでディスカッションをしたり、発表を聞いたりするときの心理的な安全性がZoomより担保されているのではないかと感じました。Zoomの方がいい、Zoomの方が機能的だと感じる(主張する)学生は、おそらく、そのパーソナルスペースが狭い、または、リアルな空間でも積極的に前に出ようとする学生なのかと推測しました。
登録不要、ブラウザだけで利用できる手軽さ
メタバースを授業で活用するにあたって、パソコン機器やネットワーク環境など、物理的な課題は特に感じませんでした。授業後、アンケートをとりましたが、一部の学生からの評価が低かった理由として、授業当日の福井大学(各学生が所属する研究室からアクセスした学生もいました)の通信環境に問題があったことも多分に影響しています。NTTのDOORが使用しているポート番号がおそらく大学のファイアウォールで許可されていないのかな?と思える現象がありました。(専門的な話になってすみません。)
一方で、特別なアプリを導入しなくても、ブラウザだけで気軽に利用できる点、また、ユーザー登録も不要な点などは、準備という意味では手軽で(特に学生)、自宅からアクセスした学生には概ね好評でした。15年ほど前に、SecondLifeというメタバース空間を利用していましたが、その当時から比較すると、おどろくほど簡単にメタバース空間の利用ができるという点では、今後も目的に応じて積極的に活用していきたいと考えています。
メタバースは自由度が高いがゆえに、何をしていいかが最初はわからず戸惑います。ただ、学生たちも次第にその自由度(自由に歩き回れる、スペースを取れる)に慣れてくると思うので、グループワークや自由に議論をするのに向いていると思いました。仮想的ですが、距離や方向によって音の聞こえ方なども変わります。これらがグループワークにどのように影響するかは調査しているわけではありませんが、先ほども書いたパーソナルスペースの確保や心理的側面に影響を与えそうです。
今後の課題と活用の方向性 – ポスター発表に最適
授業以外での活用の可能性として様々なものを感じました。
学術の分野では、例えば、学会などでポスター発表というスタイルがありますが、そのようなスタイルに最適ではないかと感じました。壁面に大判のポスター形式の研究発表を掲示して、そこで集まった方々にブース形式で説明を行う学術交流の手法です。自由に動き回るという点でも、このメタバース空間と親和性が高いと思います。近年では、このポスター発表は高校などでも取り入れられているので、そのようなシーンでオンラインで実施するのであれば違和感なく実施できると感じました。
手前みそで恐縮ですが、以前に出版したPowerPointの書籍の紹介をポスター発表のような形式で展示しているDOORの空間があります。もしよければぜひ体験してみてください!(リンク)
よくわからない、不安という方は、雰囲気をYouTube動画で!
福井大学大学院の授業では、グループでの発表(プレゼン)の場として活用しましたが、質疑応答の臨場感、一体感という点では、メタバースの可能性を感じたので、今後継続的に利用していきたいと思っていますし、仁愛女子短大の方では、後期に引き続きゼミで活用したいと思っています。特に、今回の福井大学大学院生のケースと違い、短大や学部生の場合、初対面の相手とグループで話し合うということに抵抗を持つ学生も少なからずいます。福井大学の院生のアンケートにも「顔出ししなくていい」という主旨の回答もありましたが、そのような場合、アバターである自分がメタバースの中で議論することは抵抗が少ないのではないかとも思います。
使うことが目的にならないよう、授業の目的や効果などに合わせて活用していけたらと思っていますので、また、新しいことがあれば、まとめてみたいと思います。
ちなみに、日刊県民福井(中日新聞)にも紹介されていた東京大学の「メタバース工学部」ですが、日経にも記事があります。こちらで紹介しておきます!
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/13346/
長文、読んでいただきありがとうございます。