学祭から学ぶ – 行列ができる焼き鳥屋のマーケティング(その2)

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前回の記事で、儲かる焼き鳥屋のアドバイスの経緯を書きましたが、学生は当初どう考えていて、実際にどんなアドバイスをしたのかを説明したいと思います(前回の記事から読まれる方はこちらから)。

 

まずお店として焼き鳥を選んだということについては変更しようがないのですが、大学祭の模擬店としてはいい選択をしたと思います。時期的に10月中旬、寒くもなく暑くもなくという時期なので、天候に大きく左右される商品ではありません。

 

かき氷やジュース、冷やしなんとか、、、という商品を考えると、もしも大学祭の日が寒かったり、天候不順だったりしたときに売り上げに大きく影響します。

 

学生によると、炭火で本格的にやりたいとのことだったので、商品がいいものであるということは既に前提条件としてそろっているということを踏まえて以下のアドバイスをしていきました。

 

1.販売するメニューを極力絞ること

最初にアドバイスをしたのは、販売する焼き鳥の種類を「塩」だけに絞ることです。これには学生も「なぜ?」でした。

 

研究室に来たとき、学生たちは楽しそうに、どんな味付けにしようか、いろんな種類があるとお客さんも楽しいしね、、、というようなことをワクワクしながら話をしていました。5~6種類の変わった味の焼き鳥を提供しようとか、焼いた後に自分で味が選べるようにトッピングのように売り場に並べてみようとか、、、。話を聞いていると私もワクワクしますし、実際どんな味だろうと食べたくなってきます。

 

しかし、「本当に儲けたいんだよね?」ということを確認した前提で、心を鬼にして「種類を塩だけにしないと儲からないよ」と伝えました。多くても塩とタレくらいですね。

 

■種類を減らしてマネジメントを単純化

学生は味や種類をいろいろとバラエティー豊かにして、価格もその種類やトッピングによって分けるようなことを考えていたようですが、とにかく種類を減らすようにアドバイス。

 

理由は単純。マネジメントの問題です。

 

大学祭での売り場はそれほど広くないですし、焼き鳥を処理するスタッフ側も当番制で入れ替わっていきます。味がたくさんあると、注文を受けるときも煩雑になり間違いも起きやすい。しかも、味によって焼くアミの場所まで変えなければいけません。それを不慣れな模擬店の学生スタッフで切り盛りしていくには限界があります。

 

「後から味付け案」はそのような私の指摘から出てきた学生からの対案なのですが、それもNGとしました。なぜなら、受付のカウンターでお客さんが自ら味付けすると、そこに人が留まる原因になります。要するに、多くのお客さんに対応することができなくなってしまいます。これからお金を払ってくれるお客さんで行列ができるならそれもありですが、払い終わったお客さんがそこに長いこと留まるのはお店のオペレーション上あまり好ましい話ではありません。焼き鳥はそもそも単価が安いので、ある程度の量をさばいていかないと儲かりません。

 

■種類が違っても価格は同じに!そして、キリのいい価格で!

もし種類を複数つくったとしても、価格は統一するように勧めました。

 

種類によって値段まで分けてしまうと、釣銭の問題や受付での計算も面倒になります。「繁盛させたい=大量のお客さんに対応しなければならない」ということを考えるなら(専用のレジでも作るなら別ですが)、手作業でやり取りすることを考えると、価格は統一した方がオペレーションが単純化されます。受付での金銭トラブルもなくなり、スムーズに顧客対応が可能になります。また、100円単位の価格にして、10円単位でお釣りが出ないようにすることで、小銭の準備をシンプルにできます。(これは最後の項目でまた述べます。)

 

また、彼女らが後から売り上げ分析をするかどうかはわかりませんが、販売価格が統一化されて種類もな少なければ、仕入れた焼き鳥の数と売り上げだけで計算を単純化することもできます。

 

まとめると、販売価格をそろえて、種類を減らすのは、現場でのマネジメントを極力単純・省力化してスピーディーにお客さんに対応できるようにするためなのです。また、種類が少ない方がお客さんが選ぶのに迷わなくていいという実験データもあるようで、お店側の都合だけでなく、そうした方が、お客さんも気持ち良く買い物をしてもらえます。

 

2.値段を安くしすぎないこと

次のアドバイスは価格。

大学祭にありがちなのは、模擬店で売られている品物の価格が安すぎること。

 

当たり前ですが、単価が安すぎると売り上げアップにつながりません。例えば、1本20円とかで焼き鳥を1000本販売したとしても2万円にしかならないのです。

 

単価を倍の40円にするだけで4万円になります。たかが20円、されど20円。この差が1日の売り上げという意味では2万円違います。

 

これらは大学の模擬店に限った話ではありません。

 

■人件費も含めた適正価格で販売

経営相談などでお商売をされている方々から話を聞いていると、圧倒的に多いのが単価を安く設定しているケース。自分の商品に自信があって、かつ、本当にいいものであるなら、価格を適正に設定するというのは大事なことです。販売する価格には、当然ですが自分たちの「儲け」も乗せて売らないと商売になりません。

 

特に、日本人は人件費を考えるのが苦手だと一般に言われています。学生たちの焼き鳥も、いわゆる問屋から仕入れてくるのですが、その原価だけでなく、焼くための設備や炭、販売するための小道具一式、そして、店にスタッフとして立つ自分たちの人件費も上乗せして、はじめて収支トントンという状態になります。

 

■終了時間が近づいても値引きしない!

20151030_nefudaあとは、次の項目とも関連しますが、値引きを絶対にしないようにアドバイス。

イベントの模擬店などでよく見かける光景ですが、200円だった商品に訂正線を入れて150円とかで販売しているお店をよく見かけます。大学祭が終了してくると、売る側も余らせてはいけない、早く終わりたいと焦って値引きを始めます。ですがこれは絶対にNG!

 

一般のお店でもそうですが、最初に200円で買ったお客さんがいて、次の瞬間から150円で売られている商品を見たらどう感じるか?50円返してよ!って思いますよね。また、友達が来たから50円おまけしておくね!というのもNG。これも、買いに来たお客さんからみると不公平感を持つだけです。

 

先に買ったお客さんのためにも、そして、並んでいるお客さんに不公平感を与えないためにも値引きは絶対にしないようにすすめました。

 

上記はお客さんのためという理由ですが、マネジメント上の理由もあります。

 

値引きすると、実質、先ほど議論した価格を種類によってバラバラにしているのと同じ状態になります。適正価格で販売した焼き鳥の本数、値引きした焼き鳥の本数、値引きした金額が人によってバラバラになるのであれば、それも記録しておかなければならなくなり、現場のオペレーションが煩雑に。

 

値引くということは、単価を下げることにもつながるので、売り上げアップには全く貢献しません。せっかく価格を統一したのであれば、値引きせず、最後までその価格で売り切る!ということをすすめました。

 

 

3.ばら売りせず5本セットのみで販売

最後のアドバイスは、バラ売りNGです。

5本セット以外の売り方をしないこと。

 

お客さんが1本だけとか2本だけと言われても、5本セットでしか売ることができない、とするのも売り上げアップに貢献します。上記にもあるように、焼き鳥は1本あたりの単価が安いので、まとめて売っていくことで単価を上げることができます。

 

1本20円なら、5本で100円。 1000本(200セット)売れたら2万円

1本40円なら、5本で200円。 1000本(200セット)売れたら4万円

1本60円なら、5本で300円。 1000本(200セット)売れたら6万円

1本80円なら、5本で400円。 1000本(200セット)売れたら8万円

 

この価格の比較であれば、絶対に5本で300円です。

 

1本60円の焼き鳥って高いイメージですが、5本で300円といわれると、そうかな、、、という気分になりませんか?逆に、こうやってみると1本20円、5本セットで100円、200セット売っても1日2万円・・・というのは安すぎるように見えてきませんか?

 

また、セット販売にすることで、10円のお釣りを用意する必要もなくなります。店先での小銭のやり取りは100円だけ。お釣りのトラブルもなくなりオペレーションもスムーズに。これらを5本セットで紙コップに入れて販売していきます。

友達が来たときとか、売れ残ってきたらどうするんですか?

と言う学生には、

値引きやバラ売りではなく、1回あたりのセットで300円は絶対払ってもらって、親しい友人におまけしたくなったら「1本おまけね!」というように値引きではなく、焼き鳥の数を増やすように言いました。

 

こうすれば、入金された金額は300円の倍数にしかならないはず。かつ、セットでしか販売していないので、紙コップを消費した数で、何セット売れたかがわかり、その数に300円かけた数と、会計にある金額が一致するかどうかも計算しやすくなります。何より、値引きは、誰の権限でいくらまで値引くかがあいまいになり、マネジメントがぐちゃぐちゃになる元凶です。

 

以上が、儲かるためのアドバイスですが、再度まとめると以下の3点になります。

1.販売するメニューを極力絞ること

種類を減らしてオペレーションを単純化、回転率を上げる!お客さんも迷わない。

2.販売価格を安くしすぎない

値引きをせずに、適正価格で。おまけするなら値引きでなく、プラスアルファで!

3.バラ売りせずに、5本セットで

セット販売で単価アップ、オペレーションもシンプルに!

 

20151027

大学祭当日は大繁盛で長蛇の列!

結局、焼き鳥は「塩」と「タレ」の2種類を準備して販売をしたようです。

昼頃には長蛇の列となり、焼き鳥を求めるお客さんがいっぱいという状況に。私のアドバイスだけでなく、彼女たちなりの工夫も施されて、それらが相乗効果でいい雰囲気のお店になっていたと思います。

 

普通は大学の模擬店って、お付き合いで大学教員が大量に買わされるパターンが多いと思うのですが、いい意味でその期待を裏切り、大繁盛でした。

 

ただし、「え!!!」というような展開もそのあと待ち構えていたわけで、、、

 

その後の展開と、彼女たち独自の工夫についてはまた次の回で!^^

 

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